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執筆者の写真長嶋 邦英

管理系部門がIPO準備でやること Part.06 - 知財管理編 -

 「管理系部門がIPO準備でやること」について、数回に分けて説明・ご紹介しています。前回は「管理系部門がIPO準備でやること Part.05 - 人事編 -」を説明しました。

今回は知財管理編です。

(*着手する順序は時系列ではないので、その点はお許しください。)

(*約7分程度でお読みいただけます。)











知的財産権は忘れがち


 先般「管理系部門がIPO準備でやること Part.04 - 法務編続編 -」でご紹介しましたとおり、IPO準備をするなかで法務デューデリジェンスを実施します。このとき上場準備会社の資産に関する洗い出しを行うのですが、ここの抜け漏れの多いポイントとして「知的財産権」(*)があります。

(*知的財産権は、産業財産権(後述します)と著作権に分わけられます。ここは重要なポイントです。)


 どの会社にも商標権、意匠権、特許権などを持っていることが多く、例えば、販売しているプロダクトやサービスのロゴ、サービス名等を商標、意匠(デザイン)として登録されていたり、特にプロダクトについて特許ではなく実用新案権(物品の形状、構造または組み合わせに係る考案を保護するための権利)として登録されている場合があります。


 この自社の知財権について、喉から手が出るほど欲しい!と他の会社で考えていることが多いのですが、逆に自社ではその知財権の価値に気付かず、または、そもそもその知財権の存在自体を忘れてしまっているケースがかなり多く見られます。

 私も在籍していた会社やクライアント先でそのようなケースを見ましたので、この知財権の大切さは身に染みて感じております。



 今回の記事では、知財権の管理の重要性と管理方法、IPO準備期前後での知財権の取り扱いについて説明します。知財権の価値を具体的にどうこう・・・というような内容については、知財権専門の弁護士や弁理士の先生方にご相談ください。




 皆さんの会社では、知的財産権をどのように管理されていらっしゃるでしょうか。


 いわゆる産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つ、工業財産権とも言います)については、J-Platpat(特許情報プラットフォーム・独立行政法人工業所有権情報・研修館)で検索して探し出すことができますので、いつ申請(出願)して、いつ公知・登録され、その申請者は誰か、という情報は、すぐにわかります。著作権については、J-WID(作品データベース検索サービス・一般社団法人 日本音楽著作権協会JASRAC)で音楽、楽譜等に関する情報を検索できます。このように、あとからでも検索することで、 “ ある程度 ” の情報を入手することができるのが、産業財産権となります。


 産業財産権のほかにも、例えば著作権については、書籍等著作物を調べるのは少々難しいようです。著作権等登録状況検索システム(文化庁)で著作物等に関する情報を検索できますが、著作権等登録原簿に「著作権等登録」をすることによるもので、その登録方法はあまり知られていないかと思います。ただ、一応こちらのデータベースで検索して情報を入手することができるものです。


 今回の記事では、知財権のうち特に産業財産権をクローズアップしてお話しします。さきほど産業財産権は各データベースで検索することで、「 “ ある程度 ” の情報を入手することができる」と説明しました。IPO準備期において収集する情報として、このデータベースにある情報だけでは不十分だからです。何が足らないか? おわかりでしょうか。じつはそれが不足しているために、会社にどのような産業財産権があるのかがわからなくなり、その結果、IPO準備期の多くの情報の中に埋もれてしまって、その産業財産権の価値はもとより、その存在自体も忘れられてしまうのです。



 その足らないものとは何か?


 それは、登録証と登録申請前の調査報告書です。




知財権の情報管理で大切なことは「現物の管理」


 上の説明で、少し驚かれた方がいらっしゃるかもしれません。


「登録証や登録申請前の調査報告書は、そんなに大切か?」


 まず登録証について説明します。

 実務上、特にIPO準備する会社にとっては、最も重要な知財権管理のひとつです。その理由は、その知的財産権は、その会社の資産的/財産的価値があるのか?高いのか?低いのか? これによってある時点での財務状況においては数字としては表面に出ていなくても、今後、個別のサービスごとに、また事業全体の売上高に高い影響力を持つものなのか?これらについて正しく評価する必要があるのです。

 よくあるケースでは、会社の成長性を説明する資料のうち、売上高の伸びを説明する項目で、「202*発売予定の新製品は特殊な技術を組み入れており、当該技術は特許申請中であり、当該技術の基本技術自体は当社がすでに特許登録済である」という説明があれば、その申請中の特許についても登録されるでしょう。そうなれば、売上高の伸びを説明する根拠としては十分なものです。ただし、本当にその “ 基本技術 ” は登録済なのかは調べてみないとわかりません。


 そこで難しい調査をしなくてもすぐにわかる、具体的な証拠となるのは「現物」になります。産業財産権は登録して、登録原簿に記録されていることで、その権利が確定されるわけですが、この権利が確定されていることの目に見える “ 現物 ” の証拠として「登録証」があるのです。


 また産業財産権の移転(譲渡、承継など)の場合、移転に関する契約を譲渡人・譲受人間で締結しますが、その際に、絶対必須ではないのですが、権利の現物引渡しの目録として、この登録証を受け渡すことが多いです。土地・建物等不動産でも現物引渡しをじた時点で所有権移転がなされますが、建物場合は建物の鍵ですし、土地であれば権利証です。産業財産権については、厳密には定まっておりませんが、移転日の日付を決めるとき、この登録証の引渡日を権利移転の契約締結日とする感じです。なおこの移転の日付は非常に重要な日付になります。特に、当該産業財産権について他の会社に使用許諾しているときなど、第三者の存在がある場合は、仮にその第三者と産業財産権の新旧所有者との間で金銭のやりとり(例:使用許諾に対する対価など)については、いつ時点でその対価支払先が変更となり、いつまでの対価を旧所有者、いつからの対価を新所有者に支払うことになるのか?など、さまざまな問題が発生する可能性がありますので、この移転日の日付を正確に決める必要があり、そのためにも形式上とはいえ、しっかりとした形を整えておく必要があるのです。



 なぜ上のような説明をしたかと言いますと、先般IPO準備の際に法務デューデリジェンスが必要であるとお話ししましたが、これと並行して、会社の財務状況を確認(財務ディーデリジェンス)をしますが、このとき会社の資産・財産に何があるかを洗い出しをしていくうちに、固定資産計上されていればわかりやすのですが、固定資産計上していなくても財産的価値があるものは目録リストに挙げていくことになります。そのとき、この財産目録リストに知的財産権が挙げられ、この知的財産権の物(ぶつ・目に見える現物)の証拠として、この登録証は非常に有効な証拠となります。

 この非常に有効な証拠となり得る理由としてわかりやすいのが「登録証は、紛失しても再発行ができること」です。登録証は見た目は賞状のようなもので、ただ単に社内に飾りたいもの・・・というわけではありません。登録証は、その産業財産権の所有者であること・登録者であることを現物で証明できる最良の証拠になります。ちなみに、この登録証の再発行(再交付請求)には4,600円の費用(特許印紙を貼付)が必要ですので、この少々お高めの金額をみても、この登録証が単なる賞状の扱いではないことがよくわかります。



 現物の管理でいいますと、登録証のほかにもいくつか挙げてみます。


  • 特許権:工業物であればその図面、工業物現物など

  • 意匠権:ロゴであればそのデザイン原画、使用カラーコード(Pantone やプロセスカラーの組み合わせ)など

  • 商標権:ロゴであれば使用している文字の書体、デザイン原画、使用カラーコードなど

  • 実用新案権:物品の図面、物品現物など

  • 共通 :特許・商標・意匠・実用新案調査の結果報告書


 なお、上記の最後に「共通」とありますが、ここで登録申請前の調査報告書の説明に進みます。

 この登録申請前の調査というのは、その登録申請をする当該権利自体について、他の権利者の権利(特許・商標・意匠・実用新案権)を侵害していないか?の確認を行う調査です。これは必ず実施してください。これは大変重要なもので、弁理士の先生に依頼して実施してもらうことになります。


 よくあるケースですが、弁理士事務所に相談する時点で、弁理士事務所側で事前に調査することがありますが、これはあくまで簡易的な調査です。そのため登録申請する前には完全なかたちの調査が必要です。「完全なかたち」とは、申請するものが、他の権利者の権利(特許・商標・意匠・実用新案権)を侵害していないか。これが日本だけでなく、海外も含めてのデータベース上での調査となります。この完全なかたちの調査をすることで、申請後、特許庁での審査過程で他の権利者の権利を侵害していることが発覚するなどして、申請の却下処分を受けることがなくなります。また、万一当該産業財産権の他の権利との侵害に関する係争が発生した場合、この調査がどの程度実施されたのか。その実施時点で他の権利者の存在の有無、その状況はどうだったのかを当該調査報告書を証拠として確認することがありますので、この完全なかたちの調査は必ず実施すること。そしてその調査報告書は紛失しないように厳重に管理を行なってください。




知的財産権管理は難しくありません。ポイントは・・・


 知財権管理は、難しくありません。知財権を管理するうえでのポイントは、物品の在庫管理と同じように行うことです。


 具体的にそのポイント(項目)を挙げていきます。


  1. 当該知財権の名称

  2. 登録日、登録番号

  3. 登録者 (*社名変更、移転登録等を行なった会社は要注意です。現社名が登録・表記されているかを必ず確認してください。)

  4. 権利の存続期間:始期、終期(満了)の両方 (*権利によってその存続期間は違います。)

  5. 納付金額:当初設定のとき、更新のとき


 上記の項目は最低限ですが、これらを項目としてリスト化して管理します。


 大切なことは、このリストを元にして棚卸しを年1回実施してください。この棚卸しは、単に知財権の有無を確認するだけでなく、更新の是非や更新にかかる費用の予算計上が必要となるからです。棚卸しのタイミングは、会社の年次予算計画立案前(事業年度の期末から4か月前くらい)が最良です。理由は先のとおり、更新にかかる費用はかなり高額になります。更新申請時には出願料、審査請求料などがかかりますが、さらにこれを弁理士事務所に手続依頼をするとなれば、それぞれの費用を正確に把握する必要があります。その費用も含めて予算計画に入れなければなりませんので、この費用の把握するタイミングは早い方が良いです。


 知財権管理の作業的な内容ですが、例えば更新手続の書類作成など知財権に関する専門的な業務を弁理士事務所に依頼・委託する場合、残る作業としては上の管理リストに基づく棚卸しと新規物件の入力/満了した物件の管理を行うだけですので、先のとおり「物品の在庫管理」と同じく、専門的知識等は不要である業務になりますので、管理系部門や他の部門のどなたでも業務遂行可能です。

 改めて申しあげますが、知財権管理は難しくありません。




 今回は知的財産権管理について説明しました。最近では知的財産権の登録に関するビジネスが多くなりましたので、皆さんの中にも知財権管理について熟知し、日頃から管理徹底していらっしゃるかと思います。ただ、IPO準備期において知財権管理の内容とその状況は、いままではなんとなく行なっていた業務だとしても、上場するタイミングでガラッと変わります。知的財産権管理規程を制定するところからのルール化やその知的財産権の内容によっては四半期報告書、有価証券報告書にその管理状況を記載する必要がある場面もあります。これが会社の過去・現在・将来の業績に影響しているものであれば、なおさら重要です。そのため、しっかりと管理しなくてはなりません。

 逆にいえば、この知的財産権は、会社によっては高い能力を持った、会社成長の武器にもなりますので、しっかりとした管理と同時に高くて意義のある業務であることを味わいながら業務遂行していただきたいと願っております。

 







当社が提供するサービスとして


当社が提供する「Corporate(管理系)部門 業務支援」サービスでは、


  1. IPO準備中企業のCorporate部門の業務内容の確立をサポート支援いたします。

  2. 上場企業のCorporate部門の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。

  3. IPO準備中・上場企業のCorporate部門にかかる業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(法務業務支援など)



 この機会に、ぜひCorporate部門のあり方、必要性をご理解いただき、Corporate部門の業務体制構築/再構築、業務支援をご検討ください。


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