2023年04月内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が15年ぶりに改訂されて内部統制が様変わりし、皆さんの会社では豊富な知識と蓄積された経験をもとに日々内部統制を進化させていることと思います。その豊富な知識と蓄積された経験をいったん振り返って整理し、さらに実践に役立つ戦略・戦術として活かすことを考えてみたいと思います。
今回は、業務プロセスにかかる内部統制(以下「PLC」といいます)です。
【参考となる書籍】
・今から始める・見直す 内部統制の仕組みと実務がわかる本(浅野雅文著・中央経済社)
PLCの全体像は「会社の全体像」
今回から数回にわたって業務プロセスにかかる内部統制・PLCについて、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。PLCというと、皆さんは真っ先に3点セット(業務記述、フローチャート、リスクコントロールマトリックス・RCM)を思い出すのではないでしょうか。また、この3点セットの作り方さえ知っていればよいと思われている方もいらっしゃるかもしれません。誤解を恐れずにいいますと、PLCで3点セットの作り方を知ることは二の次・三の次で、それほど重要なことではありません。なぜなら、PLCは会社の各業務のプロセスを洗い出し、そのうえで各業務のプロセスを評価(監査)するのですが、そもそも会社の各業務をすべて把握することが前提となるからです。例えば、2023年04月のJ-SOX改訂以前は評価の対象となる「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」として、売上・売掛金・棚卸資産を挙げていました。そうすると、「3勘定=売上高・売掛金・棚卸資産の3つの勘定科目だけを評価すればよい」という誤った理解が多くなり、この3勘定科目以外の勘定科目において不正行為等が発覚する事態となりました。「3勘定」を3つの勘定科目と誤って理解してしまっていることが多いのです。またもうひとつの見方として、経理業務に携わる皆さんはご存知のとおり、この3勘定だけで内部統制の4つの目的のうち「業務の有効性及び効率性」「報告の信頼性」を証明することはできません。売掛金を計上するには売上高を計上する必要がありますし、売上には必ず売上原価・仕入、販売管理費等が紐づいているはずです。つまり、それぞれの勘定には必ず他の勘定が関わっているはずなのに、内部統制の評価の際にそれぞれの勘定を別々に評価したために抜け漏れが生じ、不正行為等を見逃してしまうことになってしまうのです。これでは内部統制の4つの目的を達成することができません。2023年04月のJ-SOX改訂では評価対象として、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスは原則として全てを評価の対象としており、3勘定をあくまで例示と改訂されました。
② 評価対象とする業務プロセスの識別 イ.①で選定した重要な事業拠点(持分法適用となる関連会社を除く。)における、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスは、財務報告に及ぼす影響を勘案し、原則として、全てを評価の対象とする。 ただし、例えば、当該重要な事業拠点が行う重要な事業又は業務との関連性が低く、財務報告に対する影響の重要性も僅少である業務プロセスについては、それらを評価対象としないことができる。その場合には、評価対象としなかった業務プロセス、評価対象としなかった理由について記録しておく必要があることに留意する。 (注1)「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」については、財務報告に対する金額的及び質的影響並びにその発生可能性を考慮し、例えば、一般的な事業会社の場合、原則として、売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定が考えられる。これはあくまで例示であり、個別の業種、企業の置かれた環境や事業の特性等に応じて適切に判断される必要がある。
(出典:財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準・74ページ)
さて、ここでJ-SOXに「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスは全てを対象とする」と示していますが、皆さんの会社にとっての「事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセス」をすべて把握していらっしゃいますか?会社の事業目的のひとつに収益を上げて社会貢献することがもちろん挙げられると思いますが、この収益を上げること=「売上」だけとは限りません。収益を上げるためにはこれにかかる売上原価、販売管理費等があるはずです。特に上場会社においてはTV、インターネット等でコマーシャル(CM)やキャンペーンに莫大な費用をかけることがあるでしょう。これらの多くは広告宣伝費として計上されますが、その広告内容によって原価/販管費に区別されます。その金額・比率等によっては「事業目的に大きく関わる勘定科目」として評価対象となり、評価対象となればもちろんPLCの3点セットが必要となります。ですから、「事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセス」では、単に例示で挙げられている売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定だけでなく、会社のほぼすべての業務を把握する必要があるのです。ここで把握するというのは、3点セットのうち業務記述・フローチャートの2つを会社のほぼすべての業務について作成する必要があるということになります。そして、評価する段階となってはじめてRCMが必要となる(=3点セットが必要となる)という流れとなるのです。
この項の見出しを、PLCの全体像は「会社の全体像」としましたが、PLCと向き合うにはまず会社の全体像を把握することが前提となります。かなり時間・労力を費やすこととなりますが、のちに評価対象の抜け漏れや不正行為等不祥事の見逃しを防ぐためにも、会社の全体像を把握して会社のほぼすべての業務について業務記述・フローチャートの2つを作成することをお勧めします。
PLCのカギは評価範囲の選定①
会社の全体像を把握してほぼすべての業務について業務記述・フローチャートの2つを作成することで、PLCとして次に行うのは評価範囲の選定です。参考になる書籍としてご紹介している「今から始める・見直す 内部統制の仕組みと実務がわかる本」(浅野雅文著・中央経済社)をお読みいただくと評価範囲に関する内容が詳しく書かれていますので、ぜひお読みください。ただしテクニックにこだわると、そもそもの内部統制の評価を実施することの意義を見失ってしまうかもしれませんので、企業会計審議会の財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する監査基準・実施基準と両方を見ながら正しい知識とテクニックを身につけて実践していただくことをお勧めします。
評価範囲の選定は、内部統制計画書を作成する際に必要となることは皆さんご存知のとおりです。むしろ評価範囲の選定を行ったうえでなければ内部統制計画書は作成できません。また、評価範囲の選定のやり方次第で内部統制計画書の内容が大きく変わってしまうことがあります。そのため前述のとおり、正しい知識とテクニックを身につけて実践しないと内部統制計画そのものと評価の結果に重大な誤りが生じてしまいますので、従分にご注意ください。財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する監査基準・実施基準72ページに「業務プロセスに係る評価の範囲の決定」に関する記述がありますので、ぜひお読みください。
今回はここまでとして、次回も業務プロセスについて皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
当社が提供するサービスとして
当社が提供する「内部統制・内部監査体制構築」サービスでは、
IPO準備中企業の内部統制体制の構築とその業務内容の確立をサポート支援いたします。
上場企業の内部統制体制の再構築、業務内容の改善をサポート支援いたします。
IPO準備中・上場企業の内部統制にかかる業務の業務委託受託先(外部)として業務遂行いたします。(*内部統制責任者として、社内に1名選任をお願いします。)
この機会に、ぜひ内部統制のあり方、必要性をご理解いただき、内部統制の体制構築/再構築をご検討ください。
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